不可解な新聞記事 110911
この新聞記事は、いったい何を言いたいのか?

新聞の劣化が指摘されるようになって久しい.
記者会見ベースの垂れ流し記事や下請け任せのずさんな世論調査など、
剣より強いペンを誇ったジャーナリズム魂や今いずこ と言いたくなる.
おまけに 恣意的な記事や国語レベルの低い記事が蔓延しているので  
     うんざりして、新聞購読をやめる人が増えるのも無理はない.


2011年9月9日、読売朝刊の1面は「核実験の地 除染進む」という見出しが躍り、
核汚染の拡散に悩む「フクシマ」に大いなる希望を与えているかのようである. 
  
さて、表題の「不可解な新聞記事」とは、上の写真に示した、     
         読売新聞2011年9月9日発行の朝刊トップ記事である.
まず、大きな見出しが「核実験の地 除染進む(マーシャル諸島) 」となっていて、
別の見出しに、「表土削り地下埋設 」とあり、埋設用ドームを写真紹介している.
そしてもう一つの見出しが、「フクシマの苦しみ理解できる 」となっているのだ.
福島県民ならずとも、記事への期待に胸躍らさずにはいられないところだ.    
見出しの割に本文は短いので、まずはざっと読んでいただきたい.        
 注記)引用ミスを避けるため、文章は新聞記事ではなく                
 http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110909-OYT1T00024.htm    
からコピーした. なお、赤色文字部分は筆者の注目箇所.              

 核実験の地マーシャル諸島、除染・帰島進む
 米ソ冷戦時代の1946-58年、米国は中部太平洋、マーシャル諸島共和国のビキニ
環礁とエニウェトク環礁で計67回の核実験を行った。 8月末、最後の実験から半世紀
以上を経た同国を訪ねた。                           
 核爆発の破壊力は苛烈で、原子力発電所事故とは影響や性質は異なる。だが除染を経て
人々が帰った島や帰島準備が進む島もあり、「福島再生」への示唆に富んでいた。
   

 8月末、エニウェトク環礁の一部、ルニット島に許可を得て上陸した。放射性廃棄物が
埋設され、立ち入りが制限されている無人島。                   
 真っ白な砂浜を横切り、植物のツルをかきわけて進むと 灰色の円形ドームが見えた。
直径約110メートル、汚染土壌などを封じ込めたコンクリート製の「ルニットドーム」
の表面はひび割れが目立つが、約1時間たっても線量計の数値は「0」だった。
    
 77年から、米国はエニウェトク環礁で、島々の表土をはぎ取るなどの除染作戦を実施
実験機材や生コンに混ぜた汚染土が、核実験で生じたクレーターに投入され、ドームで覆
われた。                                    
 核実験場にされる前に他の島々に移住させられた住民らは、同環礁南部の除染終了後の
80年、33年ぶりにエニウェトク本島などに戻った。実験の影響による同環礁の放射線
量は年間約0・01ミリ・シーベルトと、日本の平常時の基準の100分の1だ。
   

 一方のビキニ環礁。 54年3月に水爆「ブラボー」実験が行われ 爆心から約160
キロの海上にいた日本のマグロ漁船 第五福竜丸の乗組員が被曝したことで知られる。 
ビキニの人々は46年に強制退去させられ別の島で暮らしていた。68年、米国はビキニ
に「安全宣言」を出し 住民の一部は帰島した。 だが78年に宣言は撤回され、環礁は
封鎖される。                                  
 その後米国はビキニ環礁の除染を行い、今 大気の放射線は問題がないレベルだ。ただ
線量の高い場所もあり 許可なく立ち入れない。 半世紀以上を経ても 戻る見込みは立
っていない。
                                  
                       



 さて皆さんは 読み終えて どんな感想をお持ちだろうか?
「福島再生への示唆に富んでいた」と、共感されただろうか?

一体全体この記事は、福島再生の可能性は高いと言う楽観論なのか
それとも福島の再生は困難だと言う悲観論なのか、どちらだろう?

冒頭のタイトルに「核実験の地マーシャル諸島、除染・帰島進む」とあり、
その実例としてエニウェトク環礁の除染や帰島の順調さが説明されるのだが、
もう一方のビキニ環礁の例になると突如、「戻れる見込みはない、」と暗転するので、
筆者のように頭の弱い人間は、目が白黒してしまうのだ.

そこで何回も読み直したのだが、読めば読むほど不可解な記事である.
内容的には、楽観論的なエニウェトクの実例と悲観論的なビキニの例が併記され
「福島再生への示唆に富む」と含みを持たせているのである.

じゃあ、どうして全体を「除染・帰島進む」という楽観論でくくるのだろう?
どうして本文の大半が楽観論で占められ、悲観論は最後の数行だけなのだろう?

この疑問を解くには、自分で情報を集めて真実を探るしかあるまい.


まず、エニウェトク環礁の実情について調べて見た.
 下図はエニウェトク環礁全体とルニットドームの位置を示した航空写真だが、
環礁南半のエニウェトク本島などいくつかの島の除染作業は、対象区画の表土を
はぎ取り、環礁東北部のルニットドームに埋設する方法で実施された. この除染
結果について、読売の記事は「住民らは同環礁南部の除染終了後、33年ぶりに
エニウェトク本島などに戻った。線量は日本の平常基準の100分の1である」
と、大成功を収めたかのように報じている. しかし実態はどうだったのだろう?

図1. エニウェトク環礁とルニットドームの位置
写真引用先:http://earthjp.net/mercury/0808020008.html 地球探検の旅
   http://ontheday.blogspot.com/2006/11/no14.html「On The Day 1st March/RUNIT dome」


 下の写真を見ていただきたい. これが除染区域の航空写真である.
実はエニウェトクの除染は 表土交換だけではなく、樹木も根こそぎ堀上げて、
植え換えたのだが、小さな苗木だから碁盤目状に植えられているのである.  
 このように徹底した除染を行った結果、放射線量はたしかに日本の平常基準
の100分の1になったのだろうが、除染区域を一歩出れば放射線量は高く、
食料の自給などままならない. とくに環礁の北半は、現在もヤシの木や穀物
が育たぬ危険な環境であり、立ち入りが禁止されている.         
 結局住民は、環礁南部の限られた範囲の除染区域の中で、食料を支給品や
輸入品に依存した不自由な生活を強いられているのである.       

 これが読売新聞の言う「着々と進む帰島」の実態であるが、そもそも読売の
記者は、このエニウェトクの島々よりはるかに広大な福島の山林の表土と樹木
の入れ替えが可能だと、真面目に考えているのだろうか?         
 むろん、福島の汚染放射能はエニウェトクとは異なり 半減期が比較的短い
セシウムが主である. だから放射能が自然消滅するまで山林を放置しておけ
ば良いとでも考えているのだろうか?  短いとは言え、線量が1桁以上低下
するには120年以上もかかるのだが?                


図2. エニウェトク除染区域の航空写真
写真引用先:https://www.facebook.com/notes/nobuaki-noguci/runit-dome-ルニットドーム-
マーシャル諸島共和国エニウェトク環礁ルニット島の核実験廃棄物封印施設/376125272466588


次に、もう一方のビキニ環礁の実態について調べて見た.
その結果、読売新聞記事の文末6行が、ビキニ環礁とその東方のロンゲラップ
環礁で起きた2つの事象を混同した記事であることが分かった.      

 記事にあるように、ビキニ環礁の島民は54年核実験以前の46年に強制
移住となって被曝を免れた後、68年何の根拠もないビキニ安全宣言を機に
帰島したが、78年の宣言撤回で再び強制退去となったままだ.      
 読売記事では その後除染を開始とあるが、これは誤りで、ビキニ環礁では
除染と再定住計画は資金難そのほかの理由で宙に浮いたままである.   

 ビキニ核実験に伴う放射能の除染作業が実施されたのはロンゲラップ環礁
である. ビキニ環礁東方180キロにあるこの環礁は、核実験の安全地域と
されて避難しなかったため、4人の胎児を含む住民達は 第5福竜丸同様、
死の灰を浴びて被曝、2日後 米政府は島民を強制移住させ治療に当たった
が、住民たちは脱毛や内臓障害、死産などに苦しんだ.         
 57年米政府はロンゲラップに安全宣言を出し住民の多くが帰島したが、
残留放射線のため再被曝し甲状腺腫瘍や白血病などが多発した.     
 このままでは全員死滅と感じた島民は、85年グリンピースの支援を得て
200km離れた無人島に脱出した. この間28年、米政府はロンゲラップの
環境放射線レベルが高いことを知りながら島民を避難させず、定期的な検査
や治療を継続した. 意図的な人体実験の疑いが強いとされる由縁である.  
       
 その後98年になって、ようやく米政府はロンゲラップ定住計画に着手し、
居住地区の除染や電気、水道などインフラ整備を進めた.除染は樹木や表土
をはぎ取り、破砕サンゴと入れ替えた.  エニウェトクのようなクレーター
がないため、汚染土壌は滑走路の下などに埋められたという.       

 下図は、ロンゲラップ環礁の全体像と定住地域の拡大写真である. 白っぽく
弓なりに見える部分が除染区域で、下方の密林は除染されていない.    

 米国は除染作業に膨大な予算を費やしてきたため、ロンゲラップへの再定住
を促進したいと考えているが、2度の被曝を強いられた住民の、行政に対する
不信感が根強い上、人口に比較して除染区域が狭く、絶海の孤島の中で一定の
自給を確保するための環境安全対策が不十分なため、帰島は進んでない.  

 読売記事はこのような実態を「戻る見込みは立っていない」と締めくくって
いるのだろうが、その前段階の解説は あまりにも祖雑である.       
  

図3. ロンゲラップ環礁とその除染地区の航空写真
写真引用先:https://www.facebook.com/notes/nobuaki-noguci/核実験場の住民帰還
マーシャル諸島共和国-ロンゲラップ環礁とエニウエトク環礁/369180483161067

 



 読売新聞は大見出しで「除染進む」、記事冒頭で「帰島進む」と言う.   
しかし、我々がこれらの見出しから期待するものと現地の実態は、あまりにも
かけ離れている. 確かに記事の文末には、被爆地の一部について「半世紀以上
経ても戻る見込みはない」と問題点の指摘も忘れていない.         
 しかしそれが事実なら、見出しを変えるべきであり、見出しを「除染、帰島
進む」としているのは、そういう楽観的な部分のみをセンセーショナルにアピ
ールしたいがためであろう. 何故そうしたかったのだろうか?      
                  
 実は、この読売朝刊が発行され、同日その記事がYOMIURI ONLINEに 掲載
された直後から、インタネットの世界では この記事を引用し、「核実験の地
マーシャル諸島 除染・帰島進む」に共鳴し感動したブログが雨後のタケノコ
のように出現したのである. まるで読売新聞サポート軍団の出現である. 
 そしてその殆どは記事の全文は掲載せず、記事の冒頭部分か高々前半部分
だけを掲載して感想や論評を述べているのだ. 要するに 楽観論の氾濫であり
、「除染・帰島進む」の大合唱である.                 

 ひょっとして、読売新聞はこのような反応を計算の上で悲観的な部分を
文末に回したのではあるまいか? つまり、サポート軍団を通じてなら、
楽観論のみがアピールされても 後々文責を問われる心配がないという巧
妙な計算をして記事を書いたのではあるまいか!?          

 冒頭の見出しと文末の結論との乖離が大きいこの記事の不可解さが、
どうしてもこのような疑念に結びついてしまうのである.       

 もしそうだとすれば、その意図は明らかであり、それは、新聞の劣化で
はなく、もはや新聞の悪化である、と言わざるを得ないのだ.      



2011年9月11日 初稿          
2011年9月24日 一部修正        
2014年8月10日 図面追加と記事訂正案削除

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参考文献

ルニットドームおよびエニウェトク環礁に関する文献
http://www.underwaterkwaj.com/enew/runit.htm    Runit Island
https://www.facebook.com/notes/nobuaki-noguci/runit-dome-ルニットドーム-マーシャル諸島共和国
エニウェトク環礁ルニット島の核実験廃棄物封印施設/376125272466588 RUNIT DOME ルニット・ドーム
http://ja.wikipedia.org/wiki/エニウェトク環礁
プルトニウム半減期は2万4年だが、コンクリート耐用年数は長くて100年、すでにひび割れ
https://www.facebook.com/notes/nobuaki-noguci/住民が戻った核実験場除染の実際/267183176694132
住民が戻った核実験場(除染の実際)
http://nnoguci.wix.com/enewetak#!2gallery/c1w1e
住民が戻った核実験場:マーシャル諸島、エニウェトク環礁

ビキニ環礁に関する文献
http://ja.wikipedia.org/wiki/ビキニ環礁
1997年IAEA調査:定住しそこで食料を摂ると年間15mSv超え「永住に適さない」
http://logsoku.com/thread/hatsukari.2ch.net/news/1313933703/
核実験 ビキニ住民「放射能汚染が怖く半世紀以上故郷に戻れない現状を訴え」
hhttp://www.nikkansports.com/general/news/f-gn-tp1-20110821-823430.html ビキニ住民「帰りたい」半世紀も夢叶わず
http://togetter.com/li/665404
《(プロメテウスの罠)不安を消せ!:1 撤回された安全宣言》改 http://www.huffingtonpost.jp/2014/02/24/bikini-atoll_n_4850917.html
ハフィントンポスト ビキニ環礁の水爆実験から60年 今も戻れない住民

ロンゲラップ環礁に関する文献
http://ja.wikipedia.org/wiki/ロンゲラップ環礁
985年にグリーンピースは 環礁から住民を救い出し、クェゼリン環礁のMejatto島とEbeye島に住民を避難させた
http://www.afpbb.com/article/politics/2705981/5442537
米、ビキニ環礁の水爆実験被害者に「帰郷」求めるが被害者には不安の声が強い
AFP BBNews2010年03月06日 14:01 発信地:マジュロ/マーシャル諸島
http://www.morizumi-pj.com/bikini/bikini.html
1,ビキニ水爆実験 被曝者はいま マーシャル諸島 レポート
http://gekkan.bunshun.jp/articles/-/635 科学者にだまされ、島に戻った人々の悲劇/ 『核の難民 ビキニ水爆実験「除染」後の現実』 (佐々木英基 著)
http://www.morizumi-pj.com/bikini/04/bikini4.html
マーシャル諸島 プロジェクト4,1 - 人体実験の疑惑 - 森住 卓 ホームページ
https://twitter.com/Maeterlinck39/status/317481885406212096 koruri
ロンゲラップ島。米の人体実験という噂も。30年後にグリーンピースの協力で避難。
http://www.kanaloco.jp/article/73245/cms_id/87018
【ビキニ被ばく60年】第2部:漂う「当事者」(1) 根拠なき「安全宣言」 今なお島民に後遺症
http://www.kanaloco.jp/article/73272/cms_id/87156
【ビキニ被ばく60年】第2部:漂う「当事者」(2)故郷奪われた島民 「福島」に思いを重ね
https://www.facebook.com/notes/nobuaki-noguci/核実験場の住民帰還
マーシャル諸島共和国-ロンゲラップ環礁とエニウエトク環礁/369180483161067
核実験場の住民帰還:マーシャル諸島共和国 ロンゲラップ環礁とエニウエトク環礁
http://www.asahi.com/articles/ASG2P5TS1G2PPTIL015.html
(ビキニ60年)「死の灰」の島 除染したけれど 中崎太郎2014年2月25日02時37分

その他の文献
http://iyasaaca.exblog.jp/11188603
 勝手に僻地散歩 マーシャル諸島に行ってみた(マーシャル諸島核実験の記録)
http://www.gensuikin.org/gnskn_nws/0402_4a.htm#top
1. マーシャル諸島におけるヒバクシャ(マーシャル諸島被曝の実態)

http://www.gensuikin.org/gnskn_nws/0505_4.htm
新刊紹介「マーシャル諸島 核の世紀」フォト・ジャーナリスト 豊崎 博光
http://www.afpbb.com/article/politics/2705981/5442537
米、ビキニ環礁の水爆実験被害者に「帰郷」求める
AFP BBNews2010年03月06日 14:01 発信地:マジュロ/マーシャル諸
http://www.rerf.or.jp/general/qa/qa12.html
放射能影響研究所:広島・長崎にはまだ放射能が残っている




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